相続税は遺産がいくらから払うべきなのか。
普段なかなか直面することのない問題ですが、いざという時のために遺産と相続税について知っておいて損はありません。
相続税をいくら払うのか、遺産の金額がいくらから払う義務が発生するのかについては、さまざまな控除についても知っておく必要があります。
そこで今回こちらの記事では、「相続税をいくらから払うのか」という疑問と併せて、遺産と相続に関する税金について詳しく解説します。
相続税の概要を確認
まずは、相続税の概要と計算方法、そして関連する基礎控除などについて見ていきましょう。
相続税とは
相続税とは、亡くなった方の財産を引き継ぐ際に、財産の金額に対して課税される税金です。
一般的には亡くなった方の配偶者や子供が財産を相続するケースが多くなり、「相続人」と呼ばれます。
相続税は引き継ぐ遺産の金額によって支払い義務の有無や、支払い金額が決まります。
相続税の計算方法
相続税の計算方法は、主に以下の3つの要素によって決まります。
- 遺産総額
- 法定相続人の人数
- 控除額
遺産総額とは
遺産総額とは、亡くなった方の財産をすべて合算したものを指します。
現金や預貯金、不動産、有価証券などがこれに該当します。
なお、借金やローンなども財産と認識されます。
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相続税の基礎控除とは
相続税の基礎控除とは、相続税の課税額から差引くことができる金額です。
基礎控除額が大きくなると、課税対象となる金額が減るため、相続税も少なくなります。
相続税に対する控除は複数ありますが、基礎控除はすべての相続人が利用できる控除となっています。
基礎控除以外の控除については、このあと詳しく解説します。
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法定相続人とは
法定相続人とは財産を相続できる人のことであり、民法によって定められています。
一般的に遺産を相続するのは法定相続人であり、亡くなった方に近い順番で順位が決まっています。
相続順位 | 相続人 |
第1順位 | 子供 |
第2順位 | 親、祖父母など |
第3順位 | 兄弟姉妹 |
この中にありませんが、亡くなった方の配偶者がいる場合、上記の相続人に関係なく配偶者は必ず相続人となります。
その上で、たとえば子供がいた場合には、配偶者と子供が相続人になります。
もし子供がいなかった場合には配偶者と親あるいは祖父母、親や祖父母がいない場合には配偶者と兄弟姉妹といった順番になります。
ココに注意
相続順位は民法で定められている相続人ですが、亡くなった方の遺言書がある場合、遺言書が優先されます。
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相続税と遺産金額の関係を詳しく解説
相続税と遺産金額の関係について見ていきましょう。
ここでは、より具体的に「遺産がいくらから相続税を払う必要があるのか」について掘り下げていきます。
相続税を払う必要があるのは遺産3,600万円から
まず、遺産総額が3,600万円を超えると相続税を払う必要が出てくる、と言う点をおぼえておいてください。
つまり、3,600万円未満なら基本的に相続税の支払い義務はありません。
遺産3,600万円までは基礎控除になる
相続税を支払うかどうかは、相続税の基礎控除が関係しています。
基礎控除できる金額の計算式を見てみましょう。
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)
つまり、法定相続人が1名だった場合、3,000万円+600万円=3,600万円が基礎控除額となるため、遺産総額が3,600万円を超えない限り、相続税を支払う必要がないのです。
相続税がかかる主なケース
相続税がかかるかどうかを判断する場合、前述したように遺産総額が3,600万円を超えるかどうかがひとつの基準となります。
しかし実際には、基準以上であっても支払いが不要なケースがあります。
では、まず相続税がかかる主なケースを見てみましょう。
1.遺産が3,600万円以上で法定相続人が1名の場合
この場合は、相続税がかかります。
ここまでに解説してきた内容通りで、遺産総額から基礎控除額を差引いても遺産の総額が残るため、課税対象となります。
2.遺産が控除額を上回る場合
この場合も、課税対象となります。
ここで指す「控除額」とは、基礎控除以外の控除も含めます。
控除額を差引いても遺産総額が残る場合には、相続税を支払う必要があるのです。
相続税がかからない主なケース
次に、相続税がかからない主なケースを見てみましょう。
1.遺産が3,600万円未満の場合
この場合、基礎控除額を下回るため、相続税の支払いは必要ありません。
2.法定相続人が複数いて控除額が遺産を上回る場合
法定相続人が複数いる場合、基礎控除額が異なるため、遺産総額が3,600万円を超えていても相続税が発生しないケースがあります。
基礎控除額の計算式は「基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)」となっているため、法定相続人が増えると、その分基礎控除額も増えるからです。
法定相続人の人数 | 基礎控除額 |
1人 | 3,600万円 |
2人 | 4,200万円 |
3人 | 4,800万円 |
法定相続人が1名増えると、基礎控除額は600万円プラスされることとなります。
基礎控除以外で相続税に使える8つの控除
相続税における控除の中で、基礎控除以外のものを紹介します。
控除 | 概要 |
配偶者の税額の軽減 | 配偶者がすべての財産を相続する場合、1億6,000万円までは相続税がかからない。 |
贈与財産の加算と税額控除(暦年課税) | 年間110万円までの生前贈与は非課税。ただし、亡くなる3年以内の贈与は課税対象。 |
未成年者の税額控除 | 相続人が未成年の場合に相続税を減額できる。 |
障害者の税額控除 | 相続人が障害者の場合に相続税を減額できる。 |
相次相続控除 | 1回目の相続から10年以内に2回目の相続が行われる場合に相続税を減額できる。 |
外国税額控除 | 海外にある財産を相続して相続税を払った場合に相続税を減額できる。 |
贈与税額控除(相続時精算課税) | 生前贈与時の課税を抑え、相続時に併せて課税される制度。 |
小規模宅地等の特例 | 土地の相続のみ最大80%の減税できる制度。 |
1.配偶者の税額の軽減
遺産相続において、配偶者は必ず相続人となる一人です。
もし子供がいない家庭で夫が亡くなった場合、夫の財産はすべて配偶者が相続します。
この場合、1億6,000万円までは相続税がかからないという制度です。
ココに注意
配偶者が遺産をすべて相続すれば、この時点での相続税は限りなく抑えることが可能です。
しかし、さらに次の相続の時、つまり夫から相続した妻が亡くなって次に相続をする時に支払う相続税が高くなる可能性があるので注意しましょう。
2.贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
財産の持ち主が生きている間に贈与を行う場合、年間110万円までであれば贈与税はかかりません。
そのため、すべての財産を遺産相続するのではなく、生前のうちに毎年110万円ずつ贈与するというケースが少なくありません。
これは、生前に贈与した財産については、相続税の対象外となるからです。
ココに注意
生前の贈与は相続税の開成対象外ですが、亡くなる3年以内に贈与した財産については、相続財産と見なされるため、相続税がかかります。
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3.未成年者の税額控除
相続人が未成年者の場合、相続を開始した年齢から20歳までの年数に応じた控除が受けられます。
未成年者の税額控除の金額の計算方法は以下のようになります。
相続を開始した年齢から20歳までの年数×10万円
例えば相続を開始した時点で16歳10ヶ月の場合、10ヶ月は切り捨てて16歳とみなします。
そして、以下の計算を行います。
20歳-16歳=4年
つまり20歳になるまで4年あるということになるので、4年×10万円で40万円が未成年者の税額控除となり、相続税から差引くことができます。
4.障害者の税額控除
相続人が障害者の場合に利用できる障害者の税額控除は、相続人が「一般障害者」か「特別障害者」かによって控除額の計算方法が異なります。
- 一般障害者
相続を開始した年齢から20歳までの年数×10万円=控除額 - 特別障害者
相続を開始した年齢から20歳までの年数×20万円=控除額
5.相次相続控除
1回目の相続から10年以内に2回目の相続が行われる場合、相次相続控除によって2回目の相続税の控除が可能です。
例えば祖父から父へ相続を行い、その後10年以内に父から子へ再び相続する場合などに適用されます。
相次相続控除の計算式は以下のようになります。
A×C(B-A)×D÷C×(10-E)÷10=各相続人の相次相続控除額
A:今回の被相続人が前の相続の際に課せられた相続税額
この相続税額は、相続時精算課税分の贈与税額控除後の金額をいい、その被相続人が納税猶予の適用を受けていた場合の免除された相続税額並びに延滞税、利子税及び加算税の額は含まれません。
B:今回の被相続人が前の相続の際に取得した純資産価額(取得財産の価額+相続時精算課税適用財産の価額-債務及び葬式費用の金額)
C:今回の相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得したすべての人の純資産価額の合計額
D:今回のその相続人の純資産価額
E:前の相続から今回の相続までの期間引用元:国税庁
6.外国税額控除
海外にある財産を相続するケースがあり、その際利用できるのが外国税額控除です。
国外の財産を相続した場合には、その財産がある国における相続税を支払う場合があります。
そこへ日本の相続税を課税することで、二重課税を回避するための制度です。
外国税額控除額は、すでに海外で支払いを行った相続税の金額、あるいは以下の計算によって算出された金額の、いずれか少ない方が採用されます。
日本における相続税額×海外の財産の総額÷相続財産の総額
7.贈与税額控除(相続時精算課税)
贈与税額控除(相続時精算課税)は、生前贈与における課税額を抑える代わりに、財産の持ち主が亡くなり相続を行う際に、生前贈与分も併せて課税される制度です。
つまり、生前贈与を行う時点では少ない税金で済みますが、相続を行う際に生前贈与で軽減された分の税金も課税されるため、課税のタイミングがズレただけということになります。
贈与税額控除(相続時精算課税)では、生前贈与の控除額が最大で2,500万円となります。
8.小規模宅地等の特例
土地を相続する際に利用できるのが、小規模宅地等の特例です。
小規模宅地等の特例を適用すると、最大80%の減税が可能となります。
ただし小規模宅地等の特例を適用するためには、いくつかの条件があります。
主に以下のようなケースで、小規模宅地等の特例が適用可能となります。
- 亡くなった方の配偶者が土地を相続する
- 亡くなった方と同居していた方が土地を相続する
- 亡くなった方の土地と建物で事業を営んでいた方が土地を相続する
相続税をおおまかに把握したいなら「相続税の早見表」がおすすめ
相続税の金額はさまざまな要因によって変化します。
ただ、ひとまず相続する財産の金額に対してどの程度の相続税が発生しそうなのか、その目安を知るためには、以下のような相続税の早見表を参考にする方法もあります。
遺産総額 | 配偶者+子供1人 | 配偶者+子供2人 | 配偶者+子供3人 | 配偶者+子供4人 |
5,000万円 | 40万円 | 10万円 | 0円 | 0円 |
6,000万円 | 90万円 | 60万円 | 30万円 | 0円 |
7,000万円 | 160万円 | 113万円 | 80万円 | 50万円 |
8,000万円 | 235万円 | 175万円 | 138万円 | 100万円 |
9,000万円 | 310万円 | 240万円 | 200万円 | 163万円 |
1億円 | 385万円 | 315万円 | 262万円 | 225万円 |
2億円 | 1,670万円 | 1,350万円 | 1,217万円 | 1,125万円 |
3億円 | 3,460万円 | 2,860万円 | 2,540万円 | 2,350万円 |
なお、上記は相続人が配偶者と子供で、配偶者が50%の相続を行った場合を想定しています。
相続税をいくらから払うか調べる際の3つの注意点
相続する財産がいくらから相続税を払うことになるのかを調べる際、以下の点に注意しましょう。
3つの注意点
- 相続税の計算は専門家に依頼するのがおすすめ
- 期限内に申告しないと加算税が追加される
- 相続税がかからなくても申告が必要なケースもある
1.相続税の計算は専門家に依頼するのがおすすめ
相続税が発生するかどうかや、相続税の金額を計算する場合は、できるだけ専門家に依頼することをおすすめします。
相続税を計算するためには、財産すべてを把握して、それぞれの価値を正しく計算しなくてはなりません。
素人がこれを実施することはかなり難易度が高くなりますので、税理士へ依頼して計算してもらうのがベストです。
2.期限内に申告しないと加算税が追加される
相続税には申告期限がありますので、必ず期限内に申告を行いましょう。
相続税の申告期限については、国税庁のホームページで以下のように記載されています。
相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行うことになっています。
引用元:国税庁
もし期限内に申告できないと、年14.6%の延滞税や納税額の15%の加算税を納めなくてはならなくなるケースもあります。
3.相続税がかからなくても申告が必要なケースもある
相続税がかからない場合でも、申告が必要となる主なケースには以下のようなものがあります。
- 配偶者控除を適用した
- 小規模宅地等の特例を適用した
このような判断についても、正しく行わないとペナルティを受けるリスクがありますので、税理士へ相談することをおすすめします。
まとめ
相続税は、相続する財産総額が3,600万円以上かどうかというのが、ひとつの基準となります。
ただし、基礎控除や配偶者控除など相続税における控除は多数あり、さらに相続人の人数などによる影響も受けます。
こうしたさまざまな状況を加味して、正しく相続税を計算するためには、税理士に依頼するのがおすすめとなります。
もし自分で判断して誤りがあった場合、多額の加算税を支払うことにもなりかねません。
相続税は、正しく期限内に納税しましょう。